菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

微生物の世界

宮道慎二・奥田徹・井上勲・後藤俊幸ほか編, 206年,230p,筑波出版会.定価12,600円 ISBN 4―924753―56―4 C3645


  本書の存在をご存じなかった方は,まずは手にとって見事な写真をご覧いただきたい.本書は図鑑である.しかし,肉眼では個体を識別できない微生物の図鑑である.200名を超す国内外の研究者から資料提供を依頼し,1,000枚余りの写真を編集されたわけであるから,本書の完成に莫大な労力と時間が投資されたことは容易に想像できる.編集に携わった各氏に拍手を送りたい.本書でいう微生物とは,原核生物(真性細菌と古細菌),菌類,微細藻類,ウイルスであり,この順に4部構成となっている.原核生物の部では電子顕微鏡写真を中心に300枚余りの写真が掲載されている.専門家でも目にしたことのないような像が並んでいるのではないだろうか.菌類の部では,本学会員になじみの深い担子菌をはじめ,医学的あるいは産業上重要な菌類を中心に400枚余りの写真が紹介されている.今話題のツボカビも掲載されている.電子顕微鏡写真は少なくなり,光学顕微鏡写真が多くなる.キノコや病変した個体など,普通の写真も多い.微細藻類の部に掲載されているおよそ200枚の写真には,普通の写真が少なくなり,顕微鏡写真が多くなる.微細藻類の走査型電子顕微鏡写真を眺めていると,まさに自然が生み出した芸術という言葉がぴったりである.ウイルスの部では,電子顕微鏡による写真が100枚ほど収められている.HIVやエボラウイルスなどの恐ろしいウイルスたちも,こうやって図鑑を通して眺めていると恐怖心も薄らいでしまう.

  繰り返すが,本書は図鑑である.このため,ある意味で学術的な書評は困難である.専門家によっては「どうしてアレが収められているのに,コレがないのか?」と,不満を漏らす方もおられるかも知れない.しかし,編集長の宮道慎二氏が自らを「微生物の宣教師」と称しておられるように,本書は若い人たちに微生物の魅力を知ってもらう強力な武器になるだろう.微生物全般を広く網羅する必要性はないと思われる.学生の多くは,微生物といえば小難しい代謝経路や固有の生活環を覚えさせられ,あまりいい思いをしていないかも知れない.本書を通して微生物の世界を覗き込めば,彼らの眼も輝きを戻すだろう.ちなみに本書は,厚めの用紙で仕上げられており,裏からの写り込みがないので,講義の資料作りにも適している.

  最後にもう一つ.本書は国内の研究者を中心に資料作りがなされていると思われるが,英語による解説も充実している.似たような図鑑が海外にも存在するかも知れないが,本書は海外の研究者にも胸を張って推薦できると確信している.海外出張のときのおみやげに,とも考えている.細かい注文を付けるならば,光学顕微鏡の種類の記載が乏しいと感じられる.そして一部ではあるが,スケールバーの記載がないところがあるので,改訂版に期待したい.

(評者 薬師 寿治

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