改訂 昆虫病原菌の検索
青木 襄児 著 A5版 332頁 全国農村教育協会 2003年発行 定価 本体4,500円+税 ISBN 4-88137-100-2
日本語で読め,昆虫病原菌の属・種までの検索ができる便利な本が出版された.本書は1989年に発行された原著を新しい資料に基づいて改訂した本であり,限定出版された原著に比べて入手が容易になった.著者が退官後に大幅な改訂を行なったそうであるが,さぞ大変であっただろうとお察し申し上げる.本書の構成は以下のようになっている.
第1章総論 第2章 種の検索法 第3章 寄主昆虫の種類と寄生菌種との関係 第4章 菌種リスト 主要引用文献 第1章 第2節の「菌類全般の体系と昆虫病原菌の位置」では,菌類の分類群別に昆虫病原菌の特徴と属までの検索表が載せられている.特に著者のご専門のエントモプトラ目についての解説が詳しい.第1章第3節には,昆虫病原菌とその関連菌の属までの検索表が載せられている.昆虫と同時に採集されることの多いダニやクモの病原菌も併せて収載されており,実用上便利である.
第2章では鞭毛菌類・接合菌類・子嚢菌類・不完全菌類に分けて属の解説と種までの検索表が載せられており,主要な属の種については図も示されている.子嚢菌類の項にはKobayasi(1941)に基づいた冬虫夏草類の検索表も収録されている.
本書によると,昆虫寄生性の菌は一般に宿主の目レベルで宿主特異性を示すことが多いそうである.第3章では,鞭毛菌類・接合菌類・子嚢菌類・不完全菌類に分けて,クモ,ダニ,昆虫の目ごとに寄生する菌種が整理されている.科レベルで寄生する菌が異なる昆虫の目については,科ごとに菌種を記してある.
第4章には第2章に収録した菌の命名者,出典,基礎異名(basionym)と異名(synonym)が丹念に記してあり,より詳しい情報を求める人の便宜を図ってある.巻末には学名・和名(冬虫夏草類のみ)からの索引が付いている.
本書で採用されている菌類の分類体系がDictionary of the Fungi第6版(Ainsworth 1971)の体系といささか古風であるのが気になったが,それ以外の部分については最新の情報が取り入れられており,属の解説の部分を読むだけでも非常に勉強になる.本書は読者の便宜を最優先したつくりになっており,これ1冊あれば昆虫病原菌の同定ができる,という大変ありがたい本である.A5版という大きさも,顕微鏡の隣で開くのに邪魔にならず使いやすい.昆虫病原菌に興味がある方や農業の現場で害虫の防除に当たる方にはもちろんのこと,大学生や大学院生向けの昆虫病理学の教科書としてもぜひお薦めしたい.