花づくし実づくし 甲斐のきのこ 武田神社菱和殿天井画[二]
渡辺 隆次 画・文. 158頁. 木馬書館 2002年10月4目発行 定価2,500円 ISBN4・943931・63・4
著者は1990年にちくま文庫から「きのこの絵本」を出版してみずからを「きのこ狂い」と称している武蔵野美術学校(現大学)出身の画家である.この絵本は42のきのこについてカラーの習作(スケッチ,円の中に書いたデザイン的なもの)と解説が書かれている.著者は現在,武田信玄を御祭神とする武田神社の神社御鎮座80年を記念して2000年に完成した儀式殿「菱和殿」の天井画を奉納している.天井画は全部で120点,その内この画文集に収められている34点がきのこの絵である.ひとつの絵の中に二つあるいは三つのキノコが描かれているのもあって40種が書かれている.四角く区切られたうちに円を接して,その中に羊水感覚(みなみらんぼう氏の推薦文より)のような絵として書かれている.著者の意図は「あとがき」に次のように書いてある.「博物誌的作品というもくろみからキノコのデリケートな差異を過たず表現するため,内外の専門図鑑を大いに参照させていただいた.本文執筆についても同じくである.」そしてキノコ狩りが盛んな甲斐の国の人々が採りたてほやほやのキノコを携えて菱和殿を訪れ天井画とつき合わせて同定あるいは鑑定することを期待している.このため絵がすばらしく,さすが画家が描いた絵でこれなら同定の役に耐え得る.特に中表紙を飾っているハナイグチやアカヤマドリ,ヤマイグチなどのイグチの仲間,タマゴタケ,ベニテングタケ,テングタケなどのテングタケの仲間は色・形ともに同定に役立つこと間違いない.また,みなみらんぼう氏も推薦しているように,登場人物である海彦,山彦,画家のW氏の会話は楽しく,読むものをしてキノコ狩りの面白さにバーチャルに引き込んでゆく.キノコの発生は秋に限らないので春,夏,冬にもいろいろなキノコがハンティングできること,それぞれのキノコについて漢字書き,学名と方言名が記されていることも役立つ.ひとつの絵について文章が3頁あり,その半分は料理ことを取り上げていて,一般の人々にも楽しい本であり良い啓蒙書である.毒キノコの形態,毒性の解説はくわしく素人にもよくわかる.前著絵本に書かれていないナラタケ,ショウゲンジ,など6種類が含まれてレパートリーが増加している.将来菌学者と組んで図鑑が出版されるならば日本の菌学の発展に大いに寄与すると考えるのは筆者ばかりではないと思う.