微生物と植物の相互作用-病害と生物防除-
百町満朗/對馬誠也 編集,ソフトサイエンス社,2009年,404pp,9,450円,ISBN: 978-4-88171-120-0
人類の活動が地球規模で環境問題を引き起こしていることが認識され,対応が迫られている.農業もその例外ではなく,食料生産増大を中心にしてきた集約農業の環境への加害者としての側面が認識され,持続的農業への方向転換が迫られている.一方,化学農薬・肥料に頼らない農業展開を強いられてきた地域や,薬剤による病害防除が困難であった土壌病害への対策では,微生物等生物を用いた技術開発が進められてきた.これらの技術,知識および考え方は,今日目指すべき環境負荷低減型農業における重要な柱の一つとして注目されている.本書は,日本植物病理学会バイオコントロール研究会発足20周年を機に国内の産官学研究機関に所属する生物防除に関わる50名の研究者により,生物防除研究の歴史,基礎研究から応用研究にいたる最新の情報と,環境保全型農業の概念,その視点からみた現状と展望まで網羅された生物防除研究の集大成である.本書の意図のとおり,生物防除という複雑系現象の解明や病害研究各論の詳細・課題などを整理することを通じて,農学を学ぶ学生,研究者,農業生産に関わるすべての方々が未来の持続的な社会の中での農業のあり方を考え,創出していくための指針・方向性が示されている.
本書は,第1章 生物防除の歴史,第2章 生物防除の基礎(1,微生物間の相互作用,2.微生物による誘導抵抗),第3章 生物防除の応用(1.菌類病害の生物防除,2.細菌病害の生物防除),第4章 生物防除の展開,からなる(B5版総404頁).それぞれの項目では,具体的な研究・応用事例の詳細が豊富な図表,写真とともに科学論文・報告的にまとめられており,微生物の和名とともに学名が併記され,また最新の話題や,特殊な用語などを「トピック」や「キーワード」により解説している.引用文献と巻末の索引により,テキストとして,また総説として最大限の利用が可能となっている.
生物防除の概念は,生態系の多様性機能の利用である.植物と微生物,さらに生物と環境との相互作用についての知識と解析技術は,環境生態学,植物生態学,植物生理学,植物免疫学,微生物学,微生物生態学,土壌生態学,共生学と密接に関係しており,複合領域を形成している.農学,植物病理学にとどまらず,植物,微生物に関わる遺伝子から環境まで様々な研究や活動に携わるすべての方々に,基礎から応用まで多くの示唆を与える書として推薦する.