群馬のきのこ(上・下巻)
群馬県野生きのこ同好会編
上:B6版 207頁 上毛新聞社 2001年発行 定価1,429円 ISBN4-88058-815-6
下:B6版 223頁 上毛新聞社 2002年発行 定価1,429円 ISBN4-88058-843-1
群馬県野生きのこ同好会から,きのこ図鑑が,2001年7月に上巻,2002年8月に下巻が出された.同会は精力的に活動し,平成5年に「群馬のきのこ」(162種)を編集している.今回は大幅な改訂版で,上巻176種,下巻153種,計329種に掲載種数が倍増し,写真も大きく,解説もより詳しくなった.現在,「○○県のきのこ図鑑」のような題名の図鑑が数多く出版されているが,これらは日本のきのこ愛好者の多さと,その活発な活動の成果とも言えよう.
既に大手出版社から多くのきのこ図鑑が出版されているが,地方の図鑑には,それらとは別の価値を期待したい.まず,その土地のきのこ相を反映する図鑑であってほしい.南北に長い日本列島は,地域ごとに多様な環境があり,それに応じて様々なきのこが生育している.しかし,どの地域にどんなきのこが分布しているかのデータは,まだまだ不足している.各地の図鑑は,そのデータを提供する点で資料的価値がある.その点で本図鑑は,撮影地が載っていて良いが,日付が無いのが惜しまれる.また,発生地が隣県のものも混じっている.本図鑑に掲載されたニオイカワキタケは北方系の種で,日本では中部地方の標高の高い地域から北海道に多く,群馬県は南限であろう.ニオウシメジは,解説にあるように群馬県が北限であり,この写真は重要である.また,ツバヒラタケ,オドタケ,エビタケ,イモタケなどの写真は,これまで図示されることの少なかった種である.もちろん,他の写真も,一つ一つが学問上貴重なデータである.
地方のきのこ図鑑では,とかく,食用きのこ,毒きのこ,目立つきのこが中心になることが多い.しかし地味だが森林生態系で重要な役割を果たしているきのこを分け隔てなく載せてほしい.食用きのこが目的の「きのこ狩」とは別に,自然界でのきのこを観察し,その生態の妙に興味を持つことも重要だろう.本図鑑は,他県の図鑑と比較すると,サルノコシカケなどの硬質菌も多く載っている点が評価できる.
残念ながら,同定の誤りが多い.上巻の誤りについては,下巻に訂正が載っているが,誤りの程度・多さが気になる.これは他県の図鑑でも五十歩百歩である.この種の図鑑は,出版前に専門家に校閲してもらうことが必要だ.また,可能なら,撮影したきのこは標本として残し,後日の同定に利用できないものだろうか.本図鑑には329種が載っており,よく見られる種は網羅しているとはいえ,アマタケ,ヒカゲシビレタケ,ヌメリイグチ,ツチグリのように汎分布種でありながら,載っていない種もある.今後の改訂に期待したい.下巻の解説記事の中では,きのこ研究の先人,角田金五郎氏の業績に触れ,群馬県がタイプロカリティーの菌を紹介し,オオシロカラカサタケ,エビタケ,イモタケなどの興味深い種について説明している.これを読んで,きのこの分類学,生態学などに興味を持つ人も多いのではないのだろうか.この図鑑が,多くの人達にきのこを通じて自然を理解するきっかけになることを期待している.