菌根

菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

MYCORRHIZAS: Anatomy and Cell Biology

R.Larry Peterson, Hugues B. Massicotte, Lewis H. Melville著,Legal 版(ソフトカバー) 176P CABI Publishing 2004年発行. 定価$69.95US. ISBN 0-660-19087-7


  Mycorrhiza = 菌根(植物の根と菌類が作る構造)は,全ての生態系,多くの森林および作物種に見られる,地球上で最も広く行き渡った共生系である.菌根の歴史は古く,植物の養分吸収促進など生育を支えている重要性から,進化,植生遷移,緑化,作物生産など,植物にかかわる基礎から応用にいたる広範な分野において様々な角度から研究されている.これらを研究手法的にみると,近年の菌根研究においても他の生物学研究の動向と同様,分子生物学,生理学および生態学的研究が主流となっており,形態学的研究は希薄である.本書は,菌根の形態学・解剖学的知見を,その機能解明にかかわる研究の基礎と捉え,現在認められている7つの菌根型およびDark septate fungal endophyteについて章ごとに取り上げ,解説したものである.

  本書の最も特筆すべき特徴は,まずそのカラー図版の美しさと量にある.図版の数は271におよび,菌根の実体顕微鏡像,切片の光学顕微鏡像,組織化学,蛍光顕微鏡像,透過型電子顕微鏡像,走査型電子顕微鏡像,共焦点レーザー顕微鏡像,および菌根菌の菌叢,菌糸の光学顕微鏡像などが良質の紙に印刷されている.さらに,この図版の質・量にもかかわらず,価格が8000円弱(1 US$=109円換算)は驚きといえる.これらの画像の多くは Dr. PetersonおよびDr. Massicotteの長年の研究により蓄積されたものであるが,その他彼らと親交のある世界各国の菌根学のリーダー的研究室からの画像が加えられており,菌根および菌根菌の組織・細胞学的研究に用いられた様々な技術の集大成といえる.これらの技術に用いる実験方法も付録に収録されている.

  読者の想定は,学部および大学院生,授業内容に菌根に関するトピックスを取り上げる高校および大学教員,そして根の細胞学および菌根学に携わる研究者である.もう一つの特筆すべき点として, Lewis H. Melvilleによる各菌根型の詳細なカラー描画がユニークである.光学切片の写真は解釈・説明が難しい場合が多いが,描画によりその特徴が明確に示され,教材としての価値を高めている.

  菌根ごとに割り振られた各章においては,形態的特徴とともに,菌根型の定義,関っている植物種・菌種の情報が網羅されており,それぞれの構造の発達過程などが詳細に述べられている.その他,本書内で引用された論文の出典,菌根に関する本,および専門用語の解説,末尾には索引が収められている.さらに,最近発表された研究トピックスが16の「Box」に紹介されており,研究者を想定した最先端の情報発信にも配慮されている.本書は形態的な情報誌として秀逸であるに留まらず,菌根研 究の導入として必須の情報がコンパクトにまとめられた 菌根教科書の一冊として位置づけられる.菌根の研究歴 に関らず,菌根に興味を持っている全ての人に何らかのひらめきを与えることを予感させる本である.

(評者 久我 ゆかり)

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