キノコ

菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

MycoKey 2.1―Keys to 850 genera of Asco― and Basidiomycota from Northern Europe―

Thomas Lœssφe & Jens H. Petersen著,DVD― ROM版 定価5ユーロ,ダウンロード版 49ユーロ  http://www.mycokey.com/ ISBN :87―984 81―5―3


  実際に菌類図鑑で採集したキノコを同定する場合,いくつもの不満がある.まず,図鑑が重い.また検索し難く,あらかじめある程度の絞込みができていないと,ひたすらページをめくるだけの作業になる.運良く検索キーが付いている図鑑であっても,そのキーを使いこなすためにはある程度の知識が必要となる.そして,他の文献の情報とあわせてチェックできないため,本当にあっているのかどうかを検討する余地がない.ただ眺めるためだけであれば,現状の図鑑で十分楽しめるが,実際にそれを使って同定する際には,使いやすいとは言い難い.Mycokeyはこうした不満を解消してくれるデジタル図鑑である.

  デジタル図鑑でキノコを対象にしたものは少ないが,MycoKeyはその膨大な情報量と画像量,検索のしやすさでは定評がある.収録されている種類は北欧産のものに限られているが,共通種を調べる場合や日本産の種類と比較する際に使える.バージョン1.0では北欧の担子菌類528属の検索が可能になっていたが,今回バージョン2.1となり,北欧の担子菌数属のほか子嚢菌318属も追加され,収録種数は850属2,20種を超えた.分類学的に混乱しているグループを多く含んでいること,他の担子菌類とは分類形質が異なることなどから,以前のバージョンで含まれていなかった異担子菌類のいくつかの種類も今回含まれており,内容的にも充実している.収録されている画像は前バージョンでは2,00枚だったが,現バージョンでは3,60枚を超え,15,00編の引用文献もリストされているという充実振りである.Mycokeyの最大の特徴である,イラストを使用した総括式検索システムはバージョン1.0を継承しており,子実体の各形態,色,担子器のタイプ,胞子紋の色,ハビタットなど,図示された各項目にチェックを入れるだけで対象属が絞り込まれるが,前バージョンよりもチェック項目が増えている.入門者にとっても,ある程度知識を持っている人にも十分利用できるように,2つの検索モードが用意されている.また絞り込んだ分類群同士の形態を比較することも可能で,対象分類群をどういった点で識別できるかを知る際には非常に便利である.

  前回のバージョンでいくつかの致命的なプログラム上の問題があったが,今回のバージョンでは改善されており,Windows XP・MacOS Xで普通に使用することができた.前回はCD―ROMから起動し,ハードディスクに CD―ROM中のデータをインストールすることなしに操作する方式だったが,今回のバージョンではハードディスクへのインストールを基本とするため,約80 MB の容量が必要となる.また,インストール後に作成されたフォルダをDVD―ROMに焼くことで,DVD上から起動できるようになる.初めてプログラムを起動させたとき,メッセージがでたらRe―indexというボタンを押す.以後Re―indexの必要はない.主要言語は英語かオランダ語いずれかを選択する.文字コードの関係上,日本語版WindowsXPでは一部文字化けするが,普通に使用する分には差し支えない点は前回と同じである.

  Mycokeyで採用されている分類体系は比較的新しいものであり,近年大きくその分類体系が改変されつつある担子菌については,綱はあえて設定せずcladeという表現を使用している.また,unknown positionという表現もいくつかの種類で見られる.こうした点について編者らは苦労したのではないかと思われるが,今後,早急な分類学的整理が必要であろう.

  Mycokeyで不満な点を強いて挙げるならば,サビ,クロボ菌類や微小子嚢菌があまり収録されていないことだろうか.いわゆるキノコを形成する菌類に偏っており,肉眼で識別できる大きさの菌類に限定されているのは仕方ないかもしれない.ただし,現時点の内容であっても他のデジタル図鑑を凌ぐ検索能力,および情報量であることには違いない.
MycoKeyのDVD―ROM版,ダウンロード版はMy-cokeyのホームページ(http://www.mycokey.com/)より購入できる.また,データは随時アップデートされており,ウェブサイトからダウンロードできるようになっている.

(評者 升屋 勇人)

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