Studies in Mycology 53:
The Missing Lineages: Phylogeny and ecology of endophytic and other enigmatic root-asso- ciated fungi
Richard C. Summerbell, Randolph S. Currah & Lynne Sigler Edit., Centraalbureau voor Schimmelcultures (CBS), 2005年. 254pp, 12, 580円(参考).ISBN: 9070351-58-7
Studies in Mycologyシリーズは,主に菌類の分類に関するシリーズとして刊行されているもので,ご存じの方も多いと思う.1972年に第1号が出版され,ほぼ2-3号/年のペースで,2006年までに55号が出版されている.各号の詳細は,http://www.cbs.knaw.nl/simonline/index.htmでご覧頂きたい.出版物を購入するには,日本の書店からの購入が可能である.また,本号を含め,ほとんどの号は,CBSのホームページから直接ダウンロードが可能で,料金も無料となっている.菌類分類学の裾野拡大に貢献するCBSの姿勢には脱帽である.
さて,今回紹介する号であるが,まずそのタイトルを見て“微笑む”方も多いのではないか.The Missing Lineages(失われた系統).まるで推理小説の題名になるような主題の後に,さらにenigmatic(謎の,得体の知れない)と続く言葉遊びに思わず‘うなって’しまった.確かに,題材となっている菌類エンドファイト(広い意味でのroot-associated fungi)を対象とする研究者は多くなく,忘れ去られてしまいそうなグループである.そのため,研究もそれほど進んでおらず,謎を秘めたグループでもある.
本号では,11報の最新の論文で,この謎解きに取り組んでいる. 分類に関する報告が6,生態に関する報告が5の構成となっている.この菌類グループは,多くの菌株が人工培地上で胞子等を形成せず,形態による分類が困難であり,そのため未同定として取り残されている. HambletonとSiglerの論文では,主に分子生物学的な手法を用いて,この問題解決に挑み,新属新種である Meliniomyces variabilisを提唱した.形態的特徴の伴わない新属の妥当性に関しては,異議を唱える分類学者もいると思う.しかし,未同定の菌株を整理し,暗闇から助け出すこととなる研究の必要性や方向性は大いに評価されるべきであると思う.一方,同グループの菌類は, 冷涼, 貧栄養の森林土壌をフィールドとする生態に関する研究が主に行われており,他の環境における生態は明らかになっていない.MandyamとJumpponenは,草原等を含む様々な環境での同菌類の生態解明に取り組み, 菌根菌のように植物と共生関係にある等,同菌類グループが,多様な環境における生態系で重要な役割を担うことを推察している.現段階では,十分な実験的検証は行われていないが,missing(行方不明)であったグループの生態が明らかになる日もそう遠くはないであろう.
以上,分類と生態に関してそれぞれ1報の概要を紹介したが,その他9報もそれぞれ十分に吟味された内容となっている.興味がある報をじっくり読むのも良いし, 全体を通読すれば,分類・生態に関する同グループの現状を十分に把握出来るようにもなる.菌根菌の研究がトリュフで始まり,マツタケで加速されているように, enigmaticな菌類グループにも,どこかに宝が隠されているかも知れない.一読をお勧めする.