菌学関係の書評

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更新日 2018-03-28 | 作成日 2007-09-15

胞子

菌類の森 日本の森林/多様性の生物学シリース

佐橋 憲生著, A5版 198頁 東海大学出版会 2004年発行 定価3150円(税込み) ISBN4-486-01638-6


  友人や知人が書いた書籍について批評をする場合,それは一般的な書評とは少し違った意味合いを含むことになろう.いかに,客観的であろうとしても,著者の顔が目の前にちらつくような状態では,いくらかは主観が混じろうというものである.いっそ,友人,知人の立場から書評を書くのだから,著者の人となりを踏まえた紹介をするのがその責務であると開き直ることにした.

  この本の著者,佐橋憲生君とは学生時代からのつきあいだから,かれこれ25年来の友人と言うことになる.研究室の主流とは少し距離を置いたテーマを選び,苦労しながら研究を続けていた.時折,話し相手に事欠くと隣の研究室にいた私の所にやってきて最新の研究情報について「・・・に載っていたあの話を知っていますか」と教えに来てくれる.当時から実によく勉強する人だった.そんな佐橋君が森林総合研究所に職を得,水を得た魚のように活躍しているのを見聞きするのは実に喜ばしい.今回上梓されたこの本も彼の見識の深さを良く表している.たとえばそれは菌類を森林生態系の重要構成員として説明したり(1章),森の菌類の機能や遺伝資源としての重要性を説く(2章)姿勢に如実に現れている.また,菌類を他の生物との相互関係のなかで捉える視点(3章)は,著者や評者がともに10年来開催してきた“微生物をめぐる生物間相互作用に関する小集会”の考え方,つまり微生物生態学の醍醐味を余すところ無く反映している.随所に配されたカラー写真や,多くの図表は一般読者の興味を充たすであろうし,“ちょっと一言”と本音を語る著者の独白コラムにも著者の人となりが反映されていて楽しい.本来地味な研究対象をこのように色鮮やかな景色に描写した著者の菌類に対する“愛”を読者はきっと感じるにちがいない.

  その“あとがき”に言うとおり,著者は「樹木の病気を木材の生産を阻害する悪いものという視点からだけ考えるのではなく,生態系における病気の意義や病原菌の機能や役割を考えよう」と研究を進めてきた.それは,森林総合研究所の偉大な先輩,今関六也氏の考えに近い立場であると言えるかも知れない.著者がこれまで目指した道も,今後の指針もこの巨人が辿った足跡の上にあると言えよう.

(評者 二井 一禎)

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