「利尻キノコハンドブック」
佐藤 清吉 著,長沢 栄史 監修, 自費出版,2010年,90pp, 非売品
日本の北端に近い利尻島.そこにはどんな菌類が生息しているのだろう?離島での菌類調査例は多くない.まれに菌類研究者が短期間来訪して,採集した菌を報告することもあるが,断片的なものにすぎない.研究者がその地域に在住するか,もしくは頻繁に調査を行わなければ,菌類相の全貌は明らかにならない.著者は北海道を代表するアマチュアきのこ研究者である.1996年から利尻に10年以上通いつめ,きのこ調査をした結果がこのハンドブックとなった.121種のきのこのカラー写真と解説が掲載されている.
種数はけっして多くはないが,よく見ると代表的と思われる種が網羅されている.おそらく,利尻に発生する種のかなりの割合がこの本に掲載されているのではないだろうか?発生年月日と発生地が明記されているので,資料的価値は高い.面白いのは写真の配列で,「ツブツブ」「まさにキノコ!」「柄がない」「おなじみさんたち」「穴だらけ」・・・と,きのこ分類用語は登場しない.また解説も,顕微鏡的特徴はほとんどない上に,肉眼的な特徴もあまり記されていない.一般の人達が読者の場合は,専門用語や細かい特徴を記載してもあまり意味がないことが多いから,この程度でよいのかもしれない.
登場するきのこはほのぼのとした口調で解説されているのが楽しい.ちりばめられたコラム記事では,「歴史探訪“利尻のキノコ”」と題して利尻の菌類研究の歴史について触れると思えば,「新種発見!? 幻のセッケンタケ」では森の中で石けんときのこを間違えたエピソードを披露し,読者を飽きさせない.
著者の佐藤清吉氏はプロ・アマを問わず知らぬ者のいない方である.菌学会の集会には必ず参加され,これはというプロ・アマの研究者には積極的に働きかけて知識を得る熱心さを私も見習いたい.このハンドブックは,初版100部の印刷だそうだ.貴重な資料として研究機関・研究者・きのこ愛好家の手元に置いておくには少なすぎる.増刷の必要があるだろう.または,さらに充実した内容の改訂版を期待したい.