いいことおしえてあげる~びせいぶつのひみつ~
絵 吉田 奈央子 文 塚本 久美子, 監修 日本微生物生態学会 教育研究部会, リバネス出版,2008 年, A4 版・ 36pp,1,575 円, ISBN:978-4-903168-12-8
「えみちゃん,おもしろそうな本あるから読んであげるね」と,おねえちゃんが自慢げに妹に読み聞かせをはじめる.「いいことおしえてあげる.みえるみえる,みんなちきゅうのなかま・・・めにみえないちいさななかまもすごーくたくさんいるんだよ・・・」.1ページ1ページカラフルな絵と短い文で構成されたこの絵本は,数あるこども向けの絵本と同じようにこどもが読み進めるのに難がない.書評を書くにあたりさて目を通そうとしていたところを,目ざといこどもたちに先取りされたのだが,こどもが読む話の内容を横で聞きつつ,こどもたちの反応もじっくり観察する機会がうまれた.「びせいぶつはおなかのなかにもいて・・・ウンチにはおなかのなかではたらいていたびせいぶつがたくさんいるよ」,「うわー,なにこれ!」と驚くのは,さまざまな形と色合いで描かれた“びせいぶつ”たちの固まりとして表現された巨大なウンチ.こどもたちは興味津々でこのウンチに見入っている.絵本として十分にこどもたちの興味を引き付けながら,身の回りや決して訪れることが出来ないようなさまざまな環境にまで“びせいぶつ”がいて,さまざまなところで役立っていることや,その中には悪さをするやつも少しはいることを絵本がこどたちに伝えていく.「・・・みんなのまわりにいるこのちいさななかまをよろしくね.お・し・ま・い」読み終えたこどもが,「これ,わかりやすい!」と,ひとこと.彼女の理解の真意はさておき,絵本として十分にこどもたちのこころをとらえ,“びせいぶつ”の導入に成功したかな,と感じた.そのあと,わが家でこどもたちが自ら継代維持するヨーグルトのはなしや,以前挑戦した自家製みそのことに話題がひろがる.巻末には読み聞かせをするおとな向けに,数名の微生物学者による“微生物”の解説が写真と図を使って解りやすく示されている.紹介が前後してしまうが,本書の絵・文も“びせいぶつ”の存在と役割を1人でも多くのこどもたちに伝えたいと願う2名の研究者によるものである.
最近,コミックから登場したさまざまな“びせいぶつ”キャラクターが一世を風靡し,国立科学博物館での菌類の特別展も成功裏に終わった.これほどキノコ以外の微生物にまでこどもたちの興味が拡大しつつある国は日本以外にはないのではないだろうか.微生物の市民権獲得や将来の日本の微生物科学の発展のためにも,それを担うこどもたちを育てる今がチャンスなのかもしれない.お硬い“微生物”学書とともに,幼い未来の微生物学者のための教育書としてのこの“びせいぶつ”絵本もぜひ座右に備えておいてはいかがだろう.