第37回 ワークショップ報告 「大型担子菌類の分類、種同定

日時: 2024年6月21日(金)~6月23日(日)
場所:筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所(長野県上田市)
講師:糟谷大河先生(慶応義塾大学)

 この数年間、コロナ禍下で、自粛による中止や、制限を設けての実施を已む無くされてきましたが、今年度はようやく平年通りのワークショップの開催が実現できました。この10年近く、変形菌や鞭毛菌より順次、菌類の系統進化の順にテーマを決めてきましたが、今年は、いよいよ大型の子実体=きのこを形成する担子菌類の分類を課題としました。当初、きのこということで、申込者が多くて大変ではと不安もあったのですが、最終日に自ら観察、同定したきのこについての同定結果の発表をする「成果発表・意見交換討論」の時間を設けますというアナウンスの一文がもしかすると、敷居を高くしてしまったかもしれません。とはいえ、中高校生を含め、大変熱心な方々が集まってくださり、参加者は合計21名(欠席2名)と盛況でした。

 初日は15時から受付を開始しましたが早くに全員が揃ったことから稲葉幹事長のご挨拶ののち、予定を変更して、前倒しで16時より糟谷先生の、「日本産大型担子菌(きのこ類)の分類体系」という題目の講義がありました。大型の子実体=きのこを作る菌類の全科を列挙して紹介されるという圧巻のレクチャーでした。ハラタケ亜門(ハラタケ綱(ハラタケ亜綱(ハラタケ目(ハラタケ科、ホコリタケ科、ナヨタケ科、カブラマツタケ科、ヒドナンギウム科、チャダイゴケ科、チャムクエタケ科、チャヒラタケ科、オキナタケ科、ガレロプシダ科、フウセンタケ科、ヒメノガステル科、モエギタケ科、ツキヨタケ科、ホウライタケ科、タマバリタケ科、ポロテレウム科、フウリンタケ科、クヌギタケ科、スエヒロタケ科、カンゾウタケ科、シメジ科、ヒメキシメジ科、オオモミタケ科、アスプロイノキベ科、クリイロムクエタケ科、キシメジ科、イッポンシメジ科、ウラベニガサ科、テングタケ科、クロサカズキシメジ科、フサタケ科、アセタケ科、ステファノスポラ科、アカギンコウヤクタケ科、ムキタケ科、ヒラタケ科、ガマノホタケ科、キヒラタケ科、ヌメリガサ科、シロソウメンタケ科、所属科不明群(カヤタケ属、ザラミノシメジ属、コガネタケ属、サマツモドキ属など))、アミロコルチキウム目(アミロコルチキウム科チヂレタケ属)、コツブコウヤクタケ目(コツブコウヤクタケ科)、イグチ目(イグチ科(多数の属に分割)、ディプロシスチジア科(ツチグリ属)、ニセショウロ科、クチベニタケ科、クリイロイグチ科、ミダレアミイグチ科、ヒダハタケ科、ヌメリイグチ科、オウギタケ科、ショウロ科、イドタケ科、ナミダタケ科、ヒロハアンズタケ科、イチョウタケ科)))、スッポンタケ亜綱(ヒメツチグリ目(ヒメツチグリ科、スクレロガステル科)、ラッパタケ目(スリコギタケ科、ラッパタケ科)、ヒステランギウム目(ヒステランギウム科)、スッポンタケ目(スッポンタケ科、スナツブタケ科、ファロガステル科))、キクラゲ亜綱(キクラゲ目(キクラゲ科))、亜綱未決定群(タバコウロコタケ目(シロサルノコシカケ科、タバコウロコタケ科、ウスカワタケ科、ヒナノヒガサ科、科所属不明(シハイタケ属))、キカイガラタケ目(キカイガラタケ科(マツオウジ属))、アンズタケ目(カノシタ科)、ベニタケ目(サンゴハリタケ科、ミヤマトンビマイ科、ウロコタケ科、マツカサタケ科、ニンギョウタケモドキ科、カワタケ科、ベニタケ科)、ハナウロコタケ目(ハナウロコタケ科)、イボタケ目(マツバハリタケ科、イボタケ科)、タマチョレイタケ目(ミダレアミタケ科、ダクリオボルス科、インクルストポリア科、ツガサルノコシカケ科、ウスバタケ科、マイタケ科、ニクハリタケ科、マスタケ科、ハナビラタケ科、トンビマイタケ科、タチウロコタケ科、シワタケ科、タマチョレイタケ科、マクカワタケ科、科所属不明(ブナハリタケ属))、シロキクラゲ綱(シロキクラゲ目(シロキクラゲ科、ニカワツノタケ科))、アカキクラゲ綱(アカキクラゲ目(アカキクラゲ科))について順次紹介がなされました。この途中で、18時になり、食事の時間ということで、夕食休憩をはさみ、また食後にレクチャーが再開しました。

 分類の講義の次は、「長野県とその周辺の亜高山帯のきのこ」と題して、糟谷先生ご自身も長野市のご出身ということで、ご当地のきのこに関するご研究の紹介がありました。1)ヒメカバイロタケ属、2)ドクツルタケ、3)スギヒラタケ、4)マクキヌガサタケについて、いずれも従来当てられてきた学名とは異なる複数種に整理されつつあるということや、亜高山帯で観察される種群や、それらの地理分布パターンに関する興味深い内容でした。更に、最後に番外編ということで、長野県に産する大変不思議な微生物複合体「天狗の麦飯」に関する興味深い知見についてもご紹介があり、会場を沸かせておられました。 

 翌日は朝食のあと、まず、「きのこ類の野外での観察・採集の仕方」というレクチャーを受けました。野外のどのようなところに目を付けてきのこを探したらよいかというものでした。カヤバノクヌギタケなどちょっと変わったハビタットにも目を配ると面白いということや、野外での観察のポイントに関する注意を頂きました。あいにくの天候で、朝からかなり強い雨が降っていましたが、みなさん、めげずに樹木園へと採集に出かけました。午前中いっぱい、めいめい、思い思いにきのこを採集して持ち帰り、午後より観察をしました。

 午後の観察では、はじめに「大型担子菌(きのこ類)の形態観察と標本作製」という講義で、肉眼的および顕微鏡的なきのこの観察ポイントについての概説を受けた後、各自が「肉眼による子実体観察記録票」と「顕微鏡による子実体観察記録票」という二枚の記入式のシートに記入をしながら、観察、分類同定を進めました。大勢の目で探した結果、たくさんのきのこが集まりましたが、いざ、じっくり観察をしていこうとすると、多数のサンプルを処理するのは困難で、1つのきのこに取り組むだけでも大変な時間がかかることを皆さん、実感されていました。

 二日目の夕方は、久しぶりに制限なしの懇親会を実施しました。夕方18時頃に、実験所から徒歩で10分ほどのところにあるグリーンパークという施設で、鉄板焼きをして懇親を深めました。以前、菅平でのワークショップというと、この施設が定番だったのですが、数年越しの久しぶりのここでの開催です。乾杯の後、歓談しながら食事をしたのち、実験所に戻り、熱心な参加者はまた顕微鏡に向かっていた様子です。

 3日目の午前中は、各自が観察に取り組んだきのこの同定結果についてのプレゼンテーションの準備に当たりました。形式は自由ということで、パワーポイントで写真を中心にまとめられた方や、スケッチをスキャンして紹介された方、匂いなどの特徴に焦点を絞った発表、等々、みなさんそれぞれに熱心に取り組まれた成果をまとめられました。このあと、全員で発表会をして、お互いの観察内容を共有し、糟谷先生からも的確なコメントを頂き、とても有意義な時間となりました。中学一年生の永田さん、高校3年の石田さんも、大人顔負けの熱心な観察結果を報告されていました。石田さんが取り組まれた白く小さなクヌギタケ型のきのこはHemimycena属で、子実体の特徴と顕微鏡観察で何種かを識別されていましたが、なかなか同定の難しい群のようです。岩谷さんは、樹木園の入り口で採集され、強いニンニク臭を有す、ニオイヒメホウライタケMycenitis属を取り上げられ、聴衆は改めて袋に入れた状態で匂いを嗅ぎ、際立った特徴を実感できました。岩谷さんは、このほか、トチノキの樹液が水に溶けだして蛍光を発することを利用してあぶり出しのような紙上に書いて浮き上がらせるイリュージョンもご披露下さりました。小山さんは、Mycena entolomoidesという、トウヒの球果より発生した非常に特徴的な面白いきのこを詳しく紹介されました。谷口さんは、写真を中心に気になるきのこについて詳細な報告をされました。このほかにも、みなさん、それぞれに興味深い観察をされていました。

 講師の糟谷先生は、大変な集中作業を要する非常にクオリティの高いテキストを作成してくださり、本当に有難うございました(久しぶりの徹夜も要されたとのこと?本当に感謝致します)。ここ数年に出版された論文の系統樹に基づく最新のきのこの分類体系について、詳しくまとまった解説をしていただき、激動の変革期にあるきのこの分類の面白さを皆さん実感されたのではないでしょうか。また、大変ご多忙のところ、空港から駆け付けて二日目よりご参加くださりました成澤会長、お疲れ様でした。懇親会でのご挨拶、乾杯、閉会式での締めのお言葉を有難うございました。

 今後も、充実したワークショップを開催していきたいと思いますので、取り上げて欲しい菌類の分類群、生態群のご要望がありましたらお知らせください。

担当幹事 出川 洋介・柴田 めいこ

H26WS_011.糟谷先生による圧巻の全科の概説レクチャー

H26WS_022.野外でのきのこの観察方法の実地レクチャー

H26WS_033.久しぶりのグリーンパークでの懇親会

H26WS_044.採集されたきのこ俯瞰図

H26WS_045.集合写真1 まじめバージョン

H26WS_046.集合写真2 恒例の学習効果を身体で表現!