日時: 2022年6月10日(金)~6月12日(日)
場所: 筑波大学山岳科学センター菅平高原実験実験所(長野県)
講師:伴さやか先生 (千葉大学医真菌医学研究センター)
講師協力:佐藤大樹先生(日本菌学会)・山本航平先生(栃木県立博物館・オンライン)
新型コロナウイルス感染症流行のため、一昨年度、昨年度と二年間続けて中止となっていたワークショップを3年ぶりに無事開催することができました。
初日は雨の降る悪天候の中、大勢の参加者の方にお集まりいただき、実験所利用のガイダンス、コロナ対策に関する諸注意等の後、簡単な自己紹介を行いました。コロナ対策のため2班に分かれて食堂で夕食を取ったのち、19時半よりレクチャーが始まりました。まずは佐藤先生から、冬虫夏草類(特にサナギタケ)の生態と生理についての講義をしていただきました。八幡平の森を舞台にした大掛かりな野外実験のお話は非常に刺激的で、参加者全員が聞き入っていました。講義後半には、冬虫夏草類の探し方や、先生の若い頃の海外の研究者たちと交流された雄姿の写真のご披露もあり、非常に充実した内容となっていました。
休憩ののち、Zoomによるオンライン接続で、山本航平先生に冬虫夏草類の最新の系統と分類についてレクチャー頂きました。近年の分子系統解析により明らかになった冬虫夏草類の系統関係、各クレードに対応する新しい分類群名、形態学的特徴やその具体例について、冬虫夏草類のほぼ全分類群を網羅する濃密な集中講義でした。
山本先生は、奥様のご出産を無事に終えられた直後の大変な最中、オンライン講義をご担当して下さりました。また、伴先生は日中に千葉大学での実習対応を終えてから駆けつけて下さり、ちょうど山本先生のオンライン講義の後半に会場に到着されました。講師の御三方、大変ありがとうございました。
翌日11日は、天気予報では雨となっていたのですが、朝のうちは未だ持ちこたえている様子でしたので、急遽、まずは先にフィールドワークをしようということになり、2手に分かれて冬虫夏草の野外観察に出かけました。立ち止まらずに歩いて20分ほどの大明神滝へのコースでは、大明神沢の周辺から、須川君や安達さん、澤さんが次々とサナギタケ、ウスアカシャクトリムシタケ、クモ生冬虫夏草の未熟個体などを発見されました。対岸岸壁には、ハエ目に発生するErynia属が多発しており、佐藤先生がよろこばれていました。
アップダウンの無い樹木園コースでは、ゆっくり歩きながら葉裏や倒木の虫草を探しました。今年は全般に気温が低く、初夏とはいえ、肌寒いような陽気が続いています。菅平在住の須川君によると、季節の進み方が遅れており、虫草の発生にはまだ早いのではないかとのことでした。とはいえ、鋭い観察眼をお持ちの方々が多く、このようなコンディションにもかかわらず、数々の冬虫夏草類や昆虫寄生菌が見つかり、講師の先生方も感心されていました。
昼食ののち、午後から、伴先生に冬虫夏草類についてのわかりやすい概説のレクチャーをして頂きました。また、伴先生の共同研究者である坂根さんが採集をされてNBRCに収められている標本類と、日本産のほぼ全属をカバーする培養プレートを、ご用意下さり、これらの豊富な資料をじっくり観察するチャンスに恵まれました。一同に会した全分類群に及ぶ見事な標本は圧巻で、中でもクズの根に穿孔する大型のチョウ目幼虫に生じるクズノイモムシツブタケは見事でした。寒天平板からのプレパラートの作成方法については伴先生のデモを拝見しつつ、皆さん思い思いの菌のプレパラートを作って観察されていました。特に、花が咲いたような美しい見た目のGibellula属は大人気で、多くの方が歓声を上げていました。
夕食後の時間には、今回初参加の地元、信州大学繊維学部の野川優洋先生より、サナギタケの栽培に関する話題提供があり、有性生殖のプロセスや交配型、培養下での子実体形成に関する熱い議論が交わされました。
また、伴先生のご用意された冬虫夏草発見クイズも大変盛り上がりました。画面に映った景色のどこかに虫草が発生しており、その場所を探し当てるというものです。難易度が上がるに従って皆さん白熱してきて、会場の前の方に集まり、身を乗り出して画面越しの冬虫夏草探しとなりました。見事、難問を突破されたのは、香川からおいでになった嶋田さんでした。視力だけではなく、どういう立地に冬虫夏草が発生しやすいのか、勘を鍛える良い訓練になりました!
最終日12日は朝から気持ちのよい晴天となりました。伴先生への質疑応答をしながら、午前中、ゆっくり観察を継続しました。標本の作成方法についての講義などもあり、最終日まで大変濃い内容のワークショップとなりました。終わり際の記念撮影では、参加者全員が身体で観察材料を表現するというWSの慣例にのっとって、全員で冬虫夏草のポーズをとりました。その後、片付け、掃除を行い、3日間行われたワークショップは盛況裡に解散となりました。
講師の伴先生、佐藤先生、山本先生、ご参加いただいた皆さん、稲葉幹事長、準備や運営に尽力してくれた須川元君、大変お疲れ様でした。3年ぶりの再開となりましたが、3日間他のことに煩わされずに、関心を持たれる同好の方々と交流を深めながら、生身の菌類の観察に没頭しその多様性を学ぶワークショップは大変貴重な機会であるとつくづく再認識致しました。今後も、コロナ等に十分安全対策を取りつつ、ワークショップの開催を続けていきたいと思います。
担当幹事 出川 洋介・柴田 めいこ