日本菌学会推奨和名
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日本菌学会推奨和名の決定についての手順
データベース委員会の提言(日菌報 49: 99-101,2008)
日本菌学会では,平成 18 年度より「データベース委員会」を設置し,日本の菌類に関してのデータベースについて恒常的に取り組むことになった.本委員会は菌学会関連のデータベースについて継続的に取り組むことを目的として組織されたため,委員は任期を限らず複数年 度を継続的に務めている. 早急に取り組むデータベースとして,以下のことがあ げられる.1日本産菌類目録(インベントリー),2絶滅危惧種,3和名・学名対照表(あるいは標準和名制定 にあたっての基礎資料作成).いずれの課題も当委員会ばかりでなく,日本菌学会の会員の総力を結集しなくてはならない分野である.これらのデータベースの構築に あたっては,その保守をどこで誰が行うかといった課題のほか,データ収集を含む順調な活動を開始するまでに時間をかけて取り組まねばならない問題も多い.当委員会では,まず新和名提唱にあたっての過程を議論し,以下のガイドラインを策定した.
問題点の整理
和名は命名規約などで規定されているものではなく, 我が国だけの問題であるため,学会では従来重視されなかった.しかし,多くの人に菌類に対する親しみをもってもらう上で,和名は直接的に役立つものである.和名には学名と異なり拘束力を持たせていない.そして,和名についての「規約」のようなものを設けるのは学名とのダブルスタンダードとなり望ましくない.また,今後 標準和名を制定する場合,複数学会からの意見がすりあわされて決定される可能性が高いが,その際に当学会は 混乱なく名前を提案できることが望ましい.したがって, 本稿で議論する「和名」とは,標準和名ではなく,標準 和名制定の際に学会として推奨する,学会での発行物で使われるべき「学会推奨和名」である.また,過去用いられてきた和名を整理するためには,既成事実の調査に かかるまとまった時間と相当の議論が必要である.そこ で,このガイドラインは,今後提唱される新規の学会推奨和名に適用されるものとする.
学会推奨和名制定の体制と方法
1 .学会推奨和名(以下,和名)は,データベース委員 会が審議をへて,決定する.
2 .データベース委員会内に,学会推奨和名管理事務局 (以下事務局)を置く.事務局は,当面国立科学博物館(国立科学博物館 植物研究部,;担当:細矢剛)に置く.
3 .新和名は原則として,日本産新種,日本新産種の第一報告者による提案を尊重する.
4 .新和名を提案する者は事務局に以下の情報を申請する.申請内容:提案者・学名・和名・根拠となる雑 誌あるいは書籍の書誌事項・標本の保存機関・備考. その場合,電子的な情報(電子メール)によること が望ましい.
5 .委員会は,新和名の提案をホームページにて公開する.
6 .提案されている新和名について異議がある場合には, 事務局に申告することができる.
7 .提案公開開始後,6ヶ月を経たものについては,2 名以上のデータベース委員が審査を行い,データ ベース委員会委員長が和名の最終決定を行ない,理事会に報告する.
8 .委員会は次のような場合に,委員会の責任で和名を提案,決定,変更できる. (1)報告者が新和名の提案申請を行わない場合に,報告者へ連絡することなく新和名を提案,決定,変更することができる. (2)過去にさかのぼって新和名を提案,決定,変更することができる.
9 .委員会が審査し決定する和名は,本学会会員が学術上の目的により使用する際の基準とするもので,一般書や普及情報等における菌類の慣用的な名称等の使用を妨げるものではない.
10.新和名提唱の受付は,2009 年 4 月 1 日から開始する.
新学会推奨和名提唱にあたっての勧告(ガイドライン)
当委員会では新学会推奨和名提唱について以下のガイドラインを制定する.このガイドラインは,「新たな和 名を生み出すための方法」ではない.生物の名前は,一種一名が原則であり,その名前とは命名法によって定まる学名である.科学的な議論は学名を用いて行われるべきである.今後,本ガイドラインで扱えない範囲の問題が浮上することも十分考えられるが,委員会ではそれらについても検討し,必要に応じてガイドラインを改訂することによって,和名・学名の対応関係の安定化を図りたい.
1 .新学会推奨和名(以下,新和名)は,十分な分類学的研究よって得られた事実に基づいて,必要と判断された場合に限って提唱されるべきである.
2 .新和名は,種以下の同定がなされ,先に和名が与えられていない分類群(taxon)をあらわす標本に対して与えるべきである(○○ sp.のような未同定 種の標本に対して,新和名を与えるべきではない).
3 .新和名の基準となる標本は適切な保存機関に保存されるべきである.
4 .新和名の提唱は,提唱順位が明確となるように,出版年月日が明記された出版物において行うべきであ る.
5 .新和名の提唱は,学会誌,成書など,広く流布される出版物において行なうべきである(同人誌・個人 出版物などにおいて行うべきではない.学会の要旨集なども望ましくない).
6 .提唱した新和名については,学会推奨和名管理事務局に報告する.その場合,電子的な情報(電子メール)によることが望ましい.
7 .和名をつけるにあたっては,故意に差別用語や不快な印象を与えるような単語を使うべきではない.
[解説]学名は命名法上のタイプに基づいて用いられ, 種または種内分類群についてはそのタイプは単一の標本 または 1 つの図解である.新学名は命名時の「種(または種内分類群)」の概念に対して与えられるのではなく, その命名の基となった単一の標本(タイプ)に基づいて 命名されている.同様に,新しい和名も和名の基準たる 標本に基づいて与えられるべきである.一つの種以下の 分類群に複数の和名が存在することが明かになったときには,とくに欠陥がない限りもっとも早く付けられた和名を尊重することが望ましい.また,同一の和名が複数の分類群に与えられる可能性を避けるため,同様に早く付けられた和名を尊重することによって,後続の同名を排除すべきである.
上記の手順は和名の安定化に一定の貢献をするものと期待されるが,これだけで全ての問題は解決されないであろう.それにも関わらず,当委員会がガイドラインを策定したのは,一定の規則に基づいていないため混乱する和名の使用法に基準を与えることが目的である.