菌学関係書籍の書評(評者 田中 秀平)
微生物ってなに? ―もっと知ろう!身近な生命―
日本微生物生態学会教育研究部会編著,日科技連 出 版 社,2006年.A5判・24pp,2,100円.ISBN: 4―8171―9194―5
2006年10月に『微生物ってなに?―もっと知ろう!身近な生命―』(日科技連出版社)が日本微生物生態学会教育研究部会の編著により出版された.日本微生物生態学会の啓蒙活動の一環として,『微生物生態学入門』(日科技連出版社)と『バイオフィルム入門』(同)に続く第三弾の微生物学入門書上梓ということになる.本書は,その「はしがき」でも述べているように,「次世代を担う若い人たちが微生物学に興味をもっていただくこと」を目的としており,1月には日本図書館協会から「選定図書」に選ばれた.
本書は「地球の生い立ちと生命の歴史」「微生物学の歴史」「微生物の種類」「地球環境の微生物たち」「役に立つ微生物たち」「バイオ研究の課題」の計6章から構成されている.今から微生物学を学ぼうとする若い人たち向けに,興味を引き出すとともに微生物学ならびに生物学の基礎知識の理解を深めるべく随所に工夫が凝らされている.微生物学の初習者には内容的に多少難しい箇所もあるが,図や写真および楽しいカットがたくさん使われており,また「豆知識」や「コラム」欄で適宜解説がなされているのでおおいに理解の助けになる.
このような入門書の出版は,大学で微生物に関わる教育を担当している者のひとりとして,たいへん有難い.初めて微生物学を学ぶ学生達にどのような講義が望ましいのか,常日頃からの悩みであった.きちんと講義をしているつもりであっても,学生のまるっきり見当違いの理解に愕然とすることがある.微生物は,言うまでもなく目には見えないから,学生には具体的なイメージがなかなかわかず,その分理解が深まりにくいのではなかろうか.私自身の学生時代をふりかえってみてもおおいに心当りがある.
生物学の基礎知識の習得とともに微生物に対するしっかりしたイメージを持つことが微生物学の理解と勉学の進展に不可欠であると思う.その意味で本書は微生物に関わるいずれの分野においても講義を補完してくれる副読本として効果的な活用ができるであろう.定価が2,100円(税込)と手頃なことも幸いである.本書は微生物学の教育にたずさわっておられる方々にも興味深く,また有用な1冊であろう.本書の前半の章で扱っている「地球の生い立ちと生命の歴史」や「微生物学の歴史」などは大学の講義で必ず触れる内容の部分ではあるものの,時間の制約を理由にごく簡単にすませることが多いし,講義をする側もさほど詳しい知識は持ち合わせていない.本書は,この部分を丁寧かつ詳細に記述しており,人間にとって「微生物とは何か」を改めて考えさせてくれる.講義のための資料としてもおおいに活用できそうである.微生物学の世界は大変広いと改めて思った.本書を通じて「地球微生物学」という学問分野があることを初めて知ったし,海洋微生物や極限環境の微生物の研究の話も大変に新鮮で興味深い.これらの微生物世界は,植物病原微生物を扱っている私にはおそらく永遠に無縁であろうが,それでも微生物という一点において無性に知的好奇心をかきたててくれる.もしかしたら,これは,私ばかりでなく,微生物を扱う教育・研究者に共通する「性」かもしれない.本書の読後感を一言で表現するならば,「自分の知的世界が広がったとつくづく思わせてくれる1冊」である.読み物としても大変に面白い.教育・研究者の方々にも是非ご一読をお薦めしたい.
(評者 田中 秀平)