菌学関係書籍の書評(評者 佐々木 史)2
北海道のキノコ
五十嵐恒夫著 , 北海道新聞社 , 2006年 . 375 pp , 2,600円. ISBN:4894533901
近年,健康食ブームやアウトドア志向の高まりも後押しし,秋になると山中へキノコ狩りに出かける方がとても多いと聞いている.多くの方はキノコ図鑑を携行し, それを基にキノコを判別されているであろう.野外でキノコを片手に図鑑を引くのであるから,大きな図鑑を 持っていくわけには行かず,かといって内容が乏しく何のキノコなのか今ひとつ判らない,といったことでは困るわけである.
先日,五十嵐恒夫北海道大学名誉教授が「北海道のキノコ」を出版された.本書は著者が以前に出版された同 名の図鑑の改訂版にあたるが,別物と言ってよいほど大きくリニューアルしている.以前出版された「北海道のキノコ」は,「続北海道のキノコ」と併せて2冊構成で あったのだが,この度1冊にまとまり,新たに約30種が 加えられたため,掲載種数も80種と大幅に増えたことになる.サイズ自体は,以前のものより若干大きくなったものの,長辺のみ長くなったことから,片手で広げて 持つ際のバランスがむしろ良くなったと感じられる..
本書をパラパラと眺めてみて,まず気づくのは良質な写真の圧倒的な豊富さである.著者が自ら撮影したと思われるこの写真は,キノコの形態の特徴をしっかりと捉えつつ,発生環境も把握できるようになっている.これ ら写真の多くは新たに撮りおろされたものである.種数 も写真枚数も大幅に増えているわけであるが,レイアウトの工夫と無駄の無い記載情報により,コンパクトなが らも見易くなっている.表紙には科ごとの検索タグがつき,その横にはその科のキノコの特徴的な形態をアイコンとして表示している.また,個々の種のページは発生 時期と食毒の別などが一目でわかるような配置となっている.これらの特徴は,アマチュアの方が採ったキノコ をフィールドで調べる際に非常に重宝するであろう.そ の他の大きな改善点として,学名による検索が行なえるようになったことや原記載者名が種名に書き添えられたことなどが挙げられる.これらは特に研究者にとってう れしいポイントであろう.
著者の専門は多孔菌科を代表とした木材腐朽菌であり,サルノコシカケ類が非常に充実して記載されている.また今までの小型図鑑には見られなかった,天然木の腐朽について多くの解説があり,腐朽木断面などの写真も添えられていることから,林業や林産業の側から腐 朽害について携わっている方にも良書と言えよう.
本書は「北海道のキノコ」と銘打ってあるが,国内で 発生するキノコの多くを網羅しており,本州などにおいてハンドブックとして用いるのに何の支障もないであろう.最後に余談ではあるが,自分の研究分野である冬虫夏草菌が,次作ではもう少し多く記載されればと願うところである.
(評者 佐々木 史)