菌学関係書籍の書評(評者 中島 千晴)3
CBS Biodiversity Series 6: Alternaria An Identification Manual.
Emory G. Simmons著 CBS-KNAW, Utrecht, 2007年, A4判, 775pp, 170.00ユーロ, ISBN 978-9070351687
本書は著者がMycotaxon誌に1981年から2003年にかけて公表した335本の論文を基にしている.これまでに1100種がAlternaria属菌として記載されているが,2007年時点で有効な発表が行われていて,同定が可能な276種がその検索表と共に,そして16種が情報が不足している種として掲載されている.これらの掲載種について純粋培養株のコロニー性状,分生子形成の様子,各部位の特徴などの記載と,他の類似菌との類別点,タイプ標本とその由来株の情報が述べられ,これらの光学顕微鏡下での大型イラストが添えられている.A4大の本だがテキスト部分とイラストは片面ずつで,1種につき見開き2ページ以上で構成されており,使い易い版組となっている.この他に,分類上の意見が多く存在する属であることから,著者の意見であると強調しながらも,その観察のポイントについて大型のイラストを使いながら解説をしている.やはりこの敢えて線画とは言わないイラストが本書の特徴である.始点と終点が繫がっていない,クシュクシュっと塗りつぶすなど,ウルサイ人が見ると許せないレベルである.私は植物寄生菌を扱っていて,採集した病斑の上に観察されたときがっかりする代表格のAlternaria属菌であるが,必要に迫られ種の同定を行うときEllisと本書のどちらを選ぶかというと,間違いなく本書である.本属は基質上での連鎖等の分生子形成パターンがよく分類形質として用いられるが,この様子がそれぞれの種のイラストの中に書き加えられており,Conidia in surface clumps of branching chains or of unbranched chains arising at close intervals near a primary conidiophore apex; secondary conidiophores not conspicuous or dominant elements of the bushy architecture….といった言葉だけだと悶絶する記載が,イラストを見ると「A. alternataのパターンね」と,(なんとなく)イメージできるようになっていて,同定マニュアルとしては文句なしなのである.2007年の出版であり,あらゆる環境・基質に頻出する菌であることから,既に多くの研究室では収蔵されていることだろう.しかし,出版時に購入を見送ったみなさん,この円高のご時世,価値の変わらない分類関係の洋書は買いですよ.
(評者 中島 千晴)