菌学関係書籍の書評(評者 中島 千晴)1
日本産樹木寄生菌目録―宿主,分布および 文献―
小林 享夫 著,全国農村教育協会,2007年,A4判・127 pp, 10,500円.ISBN:978―4―8137―129―9
2007年4月,小林享夫博士が,これまで収集された文献・資料を基に執筆された本著は,1972年に文献収集とカード作成を開始,本年の2月までその校正が続けられた.実に35年に及ぶ編集作業である.日本産樹木寄生菌が初めて海外で報告された1878年から2000年までの間に,日本産として木本植物上に記録された菌類3,800余種(変種を含む)と属・種未同定菌800余種について, AbortiporusからZythia sp.までをアルファベット順に列記し,それぞれの採録菌種名,国内分布(県単位)とその文献を1,000頁強に渡り掲載している.イメージとして,Farrらの「Fungi」を思い浮かべると良い.本文は海外での利用も考慮され,命名文献,異名・病名・宿主・分布記載文献が英和両文で掲載されている.日本植物病理学会編の日本植物病名目録では病名の初出文献のみ掲載され,その後の発生報告については記載されていないが,本著は,その後の追加宿主,発生報告,学名の変遷等について,各学会報,農試・研究会報,きのこ関連の同好会誌など収集し得る全ての文献を基に,最新の情報が織り込まれている.まさに日本の菌類相の多様性と研究者層の厚さを海外にも広く知らしめるものである.特に圧巻なのは200頁におよぶ各種索引であり,5,500編の文献目録,宿主毎の菌類目録,宿主学名と和名対照表,採録文献書誌名の英和対照表である.樹木病害研究のみならず,樹木寄生性の大型菌類を扱う研究にも欠かすことのできない必携の著となるであろう.勿論,樹木寄生性きのこの新分布を,同好会誌等へ報告する前にも目を通すべきであることは,採録誌のリストを見れば言うまでもない.
本著を手に取ると,長年の編集作業に携わった著者に対する敬意と,菌類研究を職業とする者,楽しみとする者,一人一人が正確な記録を行う重要性をあらためて認識させられる.著者の私信によれば,2010年までの補遺作成を始めているとのこと.しかし,更に数十年後,私達は本著に続く目録を公表して行くことが出来るであろうか.菌類を探索し,記録するという行為が軽視されている現状では不安にならざるを得ない.なお本書の重量は2.93 kgである.うっかり足の上やサンプルの上に落とすと大変なことになるので要注意.
(評者 中島 千晴)