菌学関係書籍の書評(評者 升屋 勇人)3
MycoKey 1.0 -Keys to 528 genera of Basidiomycota from Northern Europe-
Thomas Lœssφe & Jens H. Petersen著,CD-ROM定価約64ドル http://www.mycokey.com/ ISBN 97-984481-6-1
MycoKeyはキノコの属検索のために作られたコンピュータープログラムである.現行バージョン1.0では北欧の担子菌類528属の検索が可能になっている.総括式検索にイラストを使用しており,子実体の各形態,色,担子器のタイプ,胞子紋の色,ハビタットなど図示された各項目にチェックを入れるだけで対象属が絞り込まれる.採集してきたキノコを見て,それがどのタイプなのかをイラストで直感的に判断してゆく絵合わせのような検索システムであり,初心者でも容易に属の絞込みができる.また,顕微鏡レベルの形態からの絞込みも可能になっており,より詳細な属の検索が可能になっている.属の基準種,参考文献などもリストされており便利である.検索に用いた形態に最も合致する順番に属名をリストアップしてゆくため,形態的に類似する他の属もあわせてチェックすることができる点もよい.
検索後に表示されるキノコの画像は多くの写真家や専門家から提供してもらったもので,その数は2000枚を超える.ちなみに日本から浅井郁夫氏が撮影したAstraeus hygrometricus,Femsjonia peziziformis,Lysurus mokusin, Rhodotus palmatus,高橋博氏の撮影したGomphus fujisa- nensis,Phylloporus bellusの画像がMycoKeyに含まれている.
本プログラムではHeterobasidiomycetesは分類学的に混乱しているグループを多く含んでいること,他の担子菌類とは分類形質が異なることなどから,あえて検索対象から外してあるという.次期バージョンMycoKey2では北欧のDiscomycetesと一部のPyrenomycetesを含む350属の子のう菌について検索可能にする予定であるとのことであり,今後の展開が楽しみである.
ただし,残念なことにいくつかの致命的なプログラム上の問題がある.MycoKeyはMacOSとWindows両方で可動するが,MacOSでは終了時にハングアップする症状がでることがあり,MacOS Xへのバージョンアップが推奨されている.また,Windowsでは,QuickTimeというプログラムがあらかじめインストールされていた場合,画像が正常に表示されない.さらにMycokeyで特に問題なのは,日本語版WindowsではCD-ROMから正常に起動できないことである.特に日本語版Windows 98ではどうやっても正常に起動しない.ただし,日本語版Windows XPではCD-ROM中のMycoKeyのフォルダをハードディスクにコピーすることで,普通に使用することができた.まず,ハードディスクにCD-ROM中のMycoKeyというフォルダを丸ごとコピーし,MycoKey.exeというファイルをダブルクリックしてプログラムを起動させる.メッセージがでたらRe-indexというボタンを押す.次のメッセージが出たらOKを押す.以後Re-indexの必要はない.一部文字化けするが,普通に使用する分には差し支えない.
MycoKeyのCD-ROM版はホームページより購入できる.また軽量化バージョンがホームページ (http://www.mycokey.com/)上で自由に閲覧,検索ができるようになっており,データ件数は少ないが使用感などは確認できる.
(評者 升屋 勇人)