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一般社団法人 日本菌学会 - The Mycological Society of Japan

菌学関係書籍の書評(評者 星野 保)

追跡!辺境微生物 砂漠・温泉から北極・南極まで

中井 亮佑 著, 築地書館, 2018年, 204pp, 1,800円+税, ISBN: 9784806715719

魅力的なタイトルで,書影もそそる.私は著者を学生の頃から知っており,現在同じ職場に所属する身内であることを割引いても興味深い本だと思う.先輩を(形式的に)立てているのか,当学会に知己を持た(ず仕方)ないのか,“この”私に書評を依頼する向こう見ずな冒険心は,本書への自信の裏返しだと信じたい.

本書には,副題に掲げる様々な極限環境に生きる微生物達と,その調査に赴く若者の成長過程が記されている.彼の師匠は,“あの”広大の長沼毅さんなので,さぞやストイックな調査だと思うが,気丈に振舞う姿に初々しさを感じる.10年後も職場の暗黒面に堕ちることなく,微生物を愛し,研究に没頭して欲しい.

(個人的に)惜しむらくは,著者の研究対象が細菌であることで,真核の微生物は北極の氷雪藻類・南極湖沼でコケにすむラビリンチュラがちらっと紹介されているだけで,ちと寂しい.しかし,微小菌類のフィールド調査もほぼ同じ手順で準備・実行すると思うので参考になることも多い.特に形態的特徴が少なく,意外に培養困難な細菌が多いこの分野の研究では,分子生物学的手法が積極的に導入されてきた.著者が環境DNAの網羅的解析や分離菌株のゲノム解析を駆使して,生息地での微生物の生きざまや,生物間の相互作用を推定する箇所に引き込まれる.特に以前,物質生産に最適化した細菌ゲノムの創製(ミニマムゲノムファクトリー)プロジェクトのマネージメントに少しかかわった身として,超極小細菌の戦略は凄い.既に自然界にお手本があるのだ.

また,文献も充実している.読者の興味に合わせて,極限環境における微生物生態の知見を掘り下げることができる.さらに本文にはウイットに富んだ文章(特命係を想像する決め台詞とか)が紛れ込んでいる.手に取って探して貰いたい.

(評者 星野 保)